「少し確認したいことがあって……」と、日曜夜10時にSlackのメッセージ・・・
送ったのは課長。
受け取ったのは、夕食を終えてようやく一息ついていた部下の田中さん(仮名)。
このやり取り、皆さんの会社でも起きていないでしょうか?
注目すべきは「認識のズレ」というデータ
マイナビが2026年2月に発表した調査によると、20〜50代の正社員の64.3%が「時間外の業務連絡を拒否したい」と回答しています。
この数字も十分に深刻ですが、私がさらに注目してほしいのは別のデータです。
上司が部下へ時間外に連絡する場合「緊急度が高い」と認識している割合は60.9%。
ところが、部下が上司から受け取る時間外連絡について、同じように「緊急度が高い」と感じる割合はわずか29.9%にとどまります。
30ポイント以上の認識差…
上司が「緊急だから仕方ない」と判断して送った連絡のうち、部下が同じように「緊急だ」と感じているのは半分にも満たないのです。
この静かなズレが、職場の信頼を少しずつ削り続けています。
なぜここまでズレが生まれるのか
管理職と一般社員では、持っている情報量がそもそも違います。
上司は取引先の状況、社内の優先順位、経営からのプレッシャーをすべて抱えた上で「緊急だ」と判断します。
しかし部下にはその文脈が見えていません。
「なぜ日曜夜に?」という疑問は、ごく自然な反応でしょう。
年代別のデータも興味深いです。
時間外連絡への拒否感は20代が68.1%と最も高く、50代では52.7%とやや低い。
「若い頃は当たり前だった」という50代管理職と、「プライベートは守られるべき」と考える20代部下が、同じ職場に共存しているのです。
この世代間の常識の差が、摩擦を生んでいる。
また「強制していない」「断ってもいいと思っていた」という上司の認識は、法的にはほとんど通用しません。
上司から部下への連絡は、たとえ文面が穏やかでも、事実上の業務命令と判断されてしまうでしょう。
「任意のつもりだった」は、免責の理由にならないのです。
放置すると、どこまで発展するか
冒頭の田中さんのケースに戻りましょう。
人事部が山田課長に口頭注意をしたところ、課長は「では今後は連絡しない」と約束しました。
しかしその結果、月曜朝の情報共有が滞り、今度は別の部下から「週明けの準備ができていない」という不満が出始めます。
田中さんはその3ヶ月後、「適応障害」の診断書を持って休職申請を提出しました。
結果、会社は労災リスクの検討を迫られることになりました。
個人の感情の問題として見過ごすと、最終的には安全配慮義務違反として会社が損害賠償請求を受けるリスクにまで発展します。
これが、時間外業務連絡トラブルの典型的な末路です。
おわりに
マイナビの調査によると「つながらない権利」に関するガイドラインが41.8%の企業で未着手だそうです。
まず「何が本当の緊急事態か」を会社として定義し、「翌営業日対応を原則とする」ルールを明記する。
それだけで、管理職も「送らなくていい理由」を手に入れられます。
64.3%が拒否したいと感じながら、声に出せずにいます。
その沈黙を「問題なし」と読んでしまうのが、最も危険な誤読です。
※データ出典:マイナビ「”つながらない権利”をめぐる個人の本音と企業の実態調査」(2026年2月16日発表)
