ある日突然、見知らぬ番号から電話が来る。出てみると「○○退職代行サービスと申します。御社の△△様の退職手続きについてご連絡しました」——。
最近、こういった相談を受けることが増えてきました。
「どう対応すればいいですか?」「頭に来てしまって……」と、動揺した様子で連絡をくれる経営者の方が少なくありません。
今回は、退職代行から連絡が来たときの正しい対応と、絶対にやってはいけないことをお伝えします。
まず、弁護士案件かどうかを確認してもいいが・・・
退職代行サービスには大きく2種類あります。
弁護士が行うものと、民間業者が行うものです。
弁護士であれば法的代理人として正式な交渉ができますが、民間業者の場合は「本人の意思を伝える窓口」に過ぎません。
民間業者が交渉行為をすると、弁護士法違反(非弁行為)になる可能性もあります。
電話口が弁護士でないとすれば、色々反撃したくなりますが・・・
ただ、正直なところ——相手が弁護士かどうかをあれこれ問い詰める必要は、実際にはほとんどありません。
なぜなら、どちらであっても対応の基本姿勢は変わらないからです。
怒鳴ってはいけない。絶対に。
クライアントの社長さんから「退職代行から電話が来た、どうすればいいか」と相談されたとき、私はいつもこう答えます。
「淡々と、退職手続きを進めてください。それだけです。」
頭に来る気持ちは、本当によくわかります。「なぜ直接言いに来ない」「昨日まで普通に働いていたのに」——そういった感情は人として自然なものです。
でも、そこで怒鳴ってしまったら、それが最大のNGです。
理由は、その場にいる「他の社員」にあります。
社内で電話を受けている姿は、周囲に見えています。声は聞こえています。雰囲気は伝わっています。
そこで感情的に声を荒げてしまったら、周りの社員はこう思うでしょう。
「社長は普段は優しいのに、会社を辞めるって言ったら、あんなに怒るんだ……」
「自分が辞めるときは、退職代行を使おう」
これは笑い話ではありません。
経営者の感情的な対応が、社内で次の退職代行利用者を育ててしまう——そういう皮肉な構図が、実際に起きています。
「連れ戻す」という発想を捨てよう
もうひとつ、よくある間違いがあります。
「なんとか引き止めたい」「本人と直接話したい」という気持ちから、退職代行業者に強硬な態度を取ってしまうケースです。
でも、少し冷静に考えてみてください。
わざわざお金を払ってまで辞めようとしている人を、首根っこを掴んで連れ戻してどうするのでしょう?
嫌々働かせても本人のパフォーマンスは落ちる一方ですし、退職の意思を無理に覆した社員が長期的に職場に馴染むケースは、ほとんどありません。
むしろ不満を抱えたまま在籍し続けることで、将来的なトラブルのリスクが高まります。
私がよくお伝えするのは、こういう考え方です。
「将来、高い確率でトラブルメーカーになっていたかもしれない人が、自分から辞めてくれた。そう思いましょう。」
怒りたい気持ちはわかります。
でも、冷静に手続きを進めれば、もめることも、SNSに悪口を書かれることも、すべて回避できます。
感情的になって失うものは大きく、淡々と対応して守れるものはもっと大きい。
具体的な対応、4つのポイント
①電話口では事務的に確認する 相手の会社名・担当者名・連絡先を確認します。感情を出さず、事務的に。
②本人へは直接連絡しない 退職代行を使っている以上、本人は「直接やり取りしたくない」という意思を示しています。強引に連絡するとハラスメントと受け取られる可能性があります。
③退職手続きは粛々と進める 離職票・源泉徴収票・社会保険の喪失手続きなど、必要な書類は通常通り準備します。私物の返還や貸与品の回収は郵送でも対応できます。
④社内への情報管理はシンプルに 「一身上の都合により退職」——それだけで十分です。必要以上に話題にすると、他の社員の不安を煽ることになります。
退職代行が来る職場、来ない職場
最後に、少し本質的な話をさせてください。
退職代行が使われる背景には、「直接言えない空気がある」「言ったら何をされるかわからない」という不信感があります。
もちろん本人の性格やコミュニケーションの問題もありますが、退職代行を使われたという事実は「自社の退職環境が整っていなかった」ひとつのサインとして受け止める価値があります。
普段から「辞めるときはちゃんと言えよ」と口で言うだけでなく、実際に「言いやすい空気」があるかどうか。そこが問われています。
退職代行の電話は、確かにショックです。腹も立ちます。
でもそれは同時に、職場の仕組みを見直すきっかけでもある——そう受け取れる経営者は、長い目で見て間違いなく強いです。
頭にくる気持ちはわかります。でも、ぐっとこらえて。淡々と、粛々と。
それが、結果的に一番賢い対応です。
